Key Wordから探る税理士業務
定款変更-機関設計・役員任期・(決算公告)
 旧有限会社の考え方が会社法に取り込まれたことで経営の自由度が格段に高まった中小株式会社(譲渡制限会社)。そこに関与する税理士は、本業ではないとはいえ、日頃から会社一般の相談を受ける立場として何がアドバイスできるのだろうか。
 会社法の全部は分からなくても(実務上もその必要性に乏しい)、最低限、取り組むべきテーマとして挙がるのが「機関設計」と「役員任期」の2つだ。特に同属経営者−税法上の同族関係者ではなく親子や夫婦だけで経営と置き換えたほうが分かりやすい─においては前者のスリム化と任期伸長に伴うコスト削減に関心が集まる。
 既に会社法施行前から関与先への周知に努め、具体的な対応に取り組んでいる税理士に定款変更の意義を聞いた。

定款見直しの際にも
説明責任が求められる


東京税理士会 世田谷支部
小出 絹恵 税理士

 5月1日(会社法施行日)で会社の登記簿謄本が変わっていることをご存知ですか。取締役と株主総会だけの会社に変更するためには登記の登録免許税だけでも7万円かかります――。
 そう語るのは、東京・世田谷の小出絹恵税理士だ。
 具体的な金額で示すと「お金をかけてまで積極的に見直すほどのことでもない。」というのが多くの経営者の反応だという。

 5月までに会社法の説明をひと通り済ませたからこそ、いざスタートとともに具体的な検討に入ることができた。本業の税務でなくても、「一つ一つ判断材料を示して(経営者に)意思決定してもらうプロセスが大事」と強調する。



■役員任期の伸長は登記不要

 冒頭の7万円とは、職権登記の「取締役会」削除に3万円、「監査役」削除と譲渡制度の変更で3万円、役員変更登記に1万円(資本金1億円超の会社は3万円)かかる登録免許税の合計金額。取締役会を廃止すれば「取締役会の承認を得て‥‥」という譲渡制限の規定も、当然、変えないといけなくなるわけだ。
 「(具体的な数字を示さずに)“どうしますか”と尋ねても、“どうすればいい?”と返ってくるだけ。具体的な金額でプラス面とマイナス面を説明しなければ、意思決定の判断材料といえません」
 機関スリム化のメリットだけでなく、登記費用と天秤にかけて検討してもらうのだ。
 特に役員全員を同族関係者が占める会社では、名義だけであってもそれほどの支障はなく、役員報酬を払っていなければ、積極的に役員数を減らすほどの理由が見当たらない、と分析する。
 むしろ、どのタイプの中小企業にも効果のあるのが「役員任期の伸長」のほうだという。
 これも譲渡制限会社に認められた特典で、取締役(法定2年)、監査役(法定4年)の任期をともに10年(最長)まで伸ばすことができる制度。
 5月1日以後に定款変更をして役員の任期を延長しておけば、すでに選任されている役員の任期が選任時からのカウントになる。この結果、任期満了前に定款変更をしておけば、登記の必要はなく、登記費用をかけずに定款変更だけで任期を伸ばせることになり、「どのタイミングで変更すればいいか、すごく重要になってきます」と指摘する。
 小出事務所では、顧問先の役員任期を管理していくため、その出発点となる前回の役員改選時を洗い出し、「変更予定表」で一覧にする。
 例えば、任期を1年残し(前回の改選は平成17年6月1日)、10年の任期とする定款変更をした場合、次回改選は27年の定時株主総会までとなる。約9年後に登記するときには、定款変更を決議した時の議事録が必要になると言及する。
 また、「最新の定款に作り直してあげるのも、サービスの一環でしょうね」とフォローも忘れない。

■気になる銀行サイドの見方

 最後に「(役員数や任期伸長についての)金融機関の反応が気になりますね」と、実務経験に裏付けられた警鐘を鳴らすのは小出氏ならでは。
 「取締役1人の会社で牽制効果が働くの?」「任期10年じゃ長すぎるのでは?」と見られる可能性は十分にある。また、世代交替を控える会社では交替するまで任期伸長を控えるべき、とも。
 社会がどう評価するかで会社は動く――。一律の対応ではなく会社の実態に応じて選択肢を示し、経営者の考えを確認する作業が重要になる、と締め括るのだ。